採苗(さいびょう)
真珠養殖の第一歩は、真珠の母貝となるアコヤ貝の稚貝を採取する「採苗」からはじまります。昔は三重や長崎の海で自然に生息しているアコヤ貝を海女が採取し、それをそのまま母貝として用いてきましたが、今ではそのほとんどが稚貝から人の手によって育てられています。
母貝養殖・貝掃除
アコヤ貝の稚貝を養殖カゴに入れ、1年から2年のあいだ海中に吊り下げ成長を見守ります。またその間に、貝の開閉運動をさまたげる海綿、海草、カキなどを落とす「貝掃除」を行います。成長した貝を選別し、優秀なものだけを真珠の養殖に使用します。
卵抜き(らんぬき)
養殖真珠は母貝に核などを挿入する「核入れ」をきっかけとしてつくられるのですが、核入れができる時期は年のうちで非常に限られており、その期間を少しでも延ばすことが長年の課題でした。その解決方法のひとつが、人為的に貝の産卵を促進して早く終わらせる「卵抜き」(らんぬき)です。こういった作業は「仕立て」と呼ばれ、この作業の良し悪しが真珠の品質を大きく左右します。
貝たて・栓差し
核入れをするにはまず貝の口を開けなければなりません。そのためにまず上手く仕立てあがった貝を、卵抜きカゴから別のカゴに移し、口を上に向けぎっしりと詰めて並べます。口を開けられなくなった貝は呼吸がしにくい状態に陥り、その反動で口を大きく開きます。これが「貝たて」という工程です。その後、栓と呼ばれるクサビのような開口器を差して固定する「栓差し」を行います。
核について
ここで母貝に挿入する「核」について少し触れておきましょう。真珠養殖がはじまった頃は、技術的な問題からほとんどが、5ミリの小さな核を用いていました。しかし、大きな核を入れる技術が完成して以降は、それまで使われていた国内産の貝殻では厚みが足らず、今では材料のほとんどに海外産の貝殻を使用しています。おもにアメリカのミシシッピー川流域に生息するドブ貝が使われ、その大きな貝殻の分厚い部分を球状に研摩したものが核として使われています。
細胞切り
つぎは、アコヤ貝の外套膜が真珠質を分泌する性質があることを利用して、その部分を2ミリほどの小さな切片に切り分ける「細胞切り」とよばれる作業です。核入れをする母貝から細胞を切り取ることを「共細胞(ともさいぼう)」、別の貝から切り取ることを「長細胞(ながさいぼう)」と呼びます。
核入れ
いよいよ核入れ作業です。核入れ施術者が、球状の核と細胞を一緒に母貝に挿入していくのですが、これがとてもデリケートかつ難しい作業で、一人前の施術者になるためには最低でも10年の経験を必要とします。この段階で入れ方を間違えてしまうと、せっかくの母貝が衰弱して死んでしまったり、うまく真珠にならなかったりするのです。
養生(仮吊り)
核入れ作業を終えた施術貝は、かなりの損傷を受けて衰弱した状態に陥っています。それをそのまま沖の海に吊るすのではなく、しばらくは人の目の届きやすい所に仮に吊るして回復するのをじっくりと見極めます。この工程を「養生」と呼びます。
沖だし(本吊り)
仮吊りを終えた施術貝は、沖にある本イカダに移す「沖だし」に入り、いよいよ本格的な養殖がスタートします。立派な真珠が生まれるまでには、通常1年から3年の歳月を必要とします。
本吊りの間も、貝掃除など母貝の手入れは欠かせません。貝の状況をよくふまえて扱わなければ、環境の変化によってたちまち死んでしまったり、せっかくの真珠を吐き出してしまったりもするのです。海の変化を見極め確実に対応する、経験と地道な努力が求められる工程です。
採珠(浜揚げ)
ようやく真珠を取り出す「採珠」へと近づいてきました。しかし、すべての工程を着実に経たとしても、すべての母貝が美しい真珠を抱いて揚がってくるとは限りません。採珠の段階に至るまでに死んでしまうものもあり、またうまくここまでたどり着いたとしても納得できる美しい真珠に仕上がっている貝はごくわずかなのです。
採珠の時期は、核入れ時期や、場所、自然環境によって差はありますが、一般的には年末の12月から翌年の2月頃にかけて行われます。一部を試験剥きして、いちばん良い状態のときに「浜揚げ」をします。貝から取り出された真珠は、塩もみをして表面に付着している汚れを取り除いた後、水洗いをして乾燥させます。
選別・加工
乾燥された真珠は一珠、一珠、熟練された人の目によって「色」、「かたち」、「巻き」、「キズ」、などを見極めたうえで選別されていきます。この段階で商品にならないと見なされたものは、ことごとくはねられます。
ここで選別された真珠は、通常養殖業者から加工業者に渡り個別に仕上げ加工されていきます。ネックレスやリングなどの製品に仕上げるために穴あけ作業を行い、ネックレスの連を組み上げたり、金具をつけたりします。
このような長い時間と工程を経て、選りすぐられた真珠がお客様のお手元に届けられるのです。